Brian Protheroe - Pinball
今回ご紹介するのはBrian Protheroeの「Pinball」です。
リリース:1974
※ブライアンプロズロー、プロセロー、プロザーローと、この人の名前の訳には幾つか種類があるので、このブログ上ではBP表記で統一することにします。
さて、この英国人はなかなか表立って触れられる事がないアーティストです。
その理由は…本業がアングラな舞台俳優だから。アルバムは合計3枚で、ライブも数回程度しか行っていなかったそうです。あくまで趣味に近い範囲での活動なので世間にもあまり知られていなかったというのです。
もう少し彼を掘り下げてみましょう。60年代にミュージカル俳優を目指してロンドンにやってきたBP。彼にはモンティパイソンのように大学で演劇を学んぶといった素地は無かったらしいです。
やがて68年頃に同じような境遇の劇作家/俳優志望の青年マーティン・ダンカンと出会い、意気投合。以後脚本や歌詞面で共作者としてパートナーシップを組んでいきます。
そして時が過ぎ、ある時BPが出演していた「ガイズ・アンド・ドールズ」という舞台で本作のプロデューサーであるデル・ニューマンと出会い、更に「デス・オン・デマンド」なる舞台で自作曲を披露した際興味を持ったクリサリスレコードとデルの後押しで契約。一気にデビューが決まりました。そして「ピンボール」制作に至る訳です。
では、各曲レビューしていきましょう!
1「Clog Dancer」
後述の「Fly Now」の7インチのB面曲(Discogs参照)。
奇妙な面白いイントロです。爽やかだけどリズミカルな掛け声が特徴的で、まさにキラーチューンといったところ。
2「Money Love」
こちらも後述の「Pinball」の7インチのB面曲(Discogs参照)。
タイトルからは重めのサウンドを想像していたのですがアコースティックなサウンドでしっとり歌われています。ヴォーカルエフェクトがいいエッセンスになっています。尚、歌詞は「金まみれの愛が君を救う」。
3「Moon Over Malibu」
(taken from "Lotte's Elektrik Opera Film")※1
なんていい曲なんでしょう…!シンプルにしっとり聴かせます。コーラス、アコースティックギターの優しいストローク、そして中盤の愛ある語り…マリブ(カリフォルニアの都市)の美しい情景が目に浮かびます。
4「Mickey Dollar Dreams」
"Mickey"とは皆さんご存知のあのネズミさんのこと。「アメリカ製の嘘っぱち」という歌詞をはじめとして社会的な皮肉が綴られています。終盤の崩れるような展開はビートルズの「Long, Long, Long」を彷彿とさせるかも。
5「Goodbye Surprise」
悲劇的なピアノがイントロに響き、BPの歌が引っ張ります。トランペットもアレンジに彩りを加えています。映画の(舞台の?)ワンシーンに相応しいような1曲。
6「Pinball」
アルバム表題曲にして全英22位のスマッシュヒット曲。メロウな演奏と共に虚ろな心情が述べられるところから始まり、自分の心のふらつきを取り留めなく歌い、中盤ではサックスとタイトなドラミングが展開され、最後はまた戻っていく…曲中ではどこか朧げな浮遊感がエフェクトされ、繰り返し問いかけるようなコーラスも印象的。不思議なんだけど、引き込まれる…そんな曲です。ノエルギャラガーの曲「Riverman」はこの曲から影響を受けているとか。
7インチシングル曲(Discogs参照)。
7「Kinotata」
※2
短い曲ですが、本人達が楽しんでレコーディングしている様子が伝わってきます。
8「Changing My Tune」
流れるような優しい曲。この人の裏声は天使程ではないけど、包まれるような多幸感があります。メロディーは少し不安定ですが、成立する不思議。
この曲のピアノはまるでお淑やかなエルトンジョン(?)
9「Monkey」
イントロからひねくれた感じがたまらないです!笑 彼の歌はスキャットやウッ!といった掛け声が特徴的で楽しいです。猿だけじゃなく虎とかにも言及している模様。一応猿っぽい声(?)も聴けます。
10「Lady Belladonna」
タイトルはビートルズの「Lady Madonna」にかけているのでしょうか。静かに幕を開け、しとしととある女性について語られていきます。少しずつ盛り上がりを見せますが、最後は優しくフェードアウト。
11「Fly Now」
7インチシングル曲(Discogs参照)。
シングル曲なだけあって、アルバムの中でもかなりタイトなサウンド。カッコイイです。コーラスがウィウウィウ言ってて奇妙なのも面白い所。最後もWhat you gonna do~♪の力強い歌唱で締めくくられます。
12「Interview/Also In The Limelight」
(taken from "Lotte's Elektrik Opera Film")※1
。ジャジーなサウンドにエッセンスを添えるように語られている感じです。爽やかなストリングスが印象的なイントロと落ち着いた雰囲気が良き70年代SSWを想起させてくれます。後半のコーラスワーク、そして盛り上がりは必聴!
13「Wrong Kinotata」
”Kinotata”のリプライズがアルバム最後を飾ります。
※1・・・"Lotte's Elektrik Opera Film"とは先述のマーティンが脚本を書きBPの曲が使用されたハリウッドが舞台のミュージカル。※の付いている曲はそのミュージカルのために書き下ろされたもの。
※2・・・"Kinotata"もマーティン脚本のミュージカル。76年の11月、ロンドンのコヴェントガーデンにあった"超シュールな"キャバレーで初演されたという。"Kinotata"と"Wrong Kinotata"はマーティン作曲。
どこかレイデイヴィスに通ずるようなひねくれ加減と10cc等に繋がるポップさが散りばめられた本作。線画のポートレイトはシンプルだけど印象的です。
思えばこのアルバムのどの曲も映像(ワンシーン)が浮かび上がるような音で、彼が舞台俳優(しかもB級の)だからこそ出来たアルバムなんじゃないかと思います。様々なジャンルが混じり合う時代に生まれたこの小さな作品は「ニッチポップ」と呼ばれ親しまれているそう。この人はベストアルバムも出ているのでそちらもチェックしてみて下さい。ストリーミングサービス等でチェックしてみるのも有りかと思います。
次回のレビューもお楽しみに!
0コメント