ベストアルバム 2017
いよいよ2017年も終わりですね。ということで、今年出たアルバムの中から僕が素晴らしいと思ったアルバムを9つ(+その他のノミネート作品)を感想と共に載せていきます。
※順位は決めずリリースされた順に発表していきます。
1. Thundercat 『Drunk』
ジャズ(若しくはネオソウル)周辺で今年一番注目されたのではないでしょうか?そんなことはないのかな。とはいえこの作品、ちょっとAOR辺りへのアプローチもありますよね("Show You The Way"でのKenny LogginsとMichael McDonaldの共演などで顕著)。そういったある種の"聴きやすさ"もこの作品が受け入れられる理由なのかなと思っています。歌詞もクスッと笑える内容だったり割と和やか(?)。また、彼自身日本のアニメ文化等を中心に日本を愛してくれているようで日本人としては嬉しいですよね。勿論彼の超絶技巧、そしてプロデュース力はジャズ、ファンク、そしてヒップホップにとってとても重要なものであり、評価されるべくして評価されたものでしょう。
2. Syd 『Fin』
The InternetのフロントマンにしてTyler, The Creator率いるOFWGKTAの紅一点、Syd Tha Kidのソロデビュー作。ジャケットはその作品をイメージするものとして重要視されますが、まさにジャケット通りの冷たいトラック、そしてそれを暖めるようになめらかに響くSydのヴォーカル。そしてファンやセクシュアリティ、過去と今に向き合ったリリック。作風はバンドとして活動する前のThe Internetに近いでしょうか。実力のあるプロデューサーを多数起用し、鋭く、甘い音楽が心地良い空間を演出してくれます。バンドだけでなく自分自身を研ぎ澄ましてゆくSyd。最新ネオソウルの担い手としてさらなる活躍が期待出来そうです。
3. SZA 『Ctrl』
グラミー賞にて新人賞含め5部門にノミネートされている注目株。TIME誌のランキングでは同じレーベルのKendrick Lamarを抑えて1位をとったりとしっかり評価されている作品ですね。SZA自身はこのアルバムを生み出すのに苦労したようで、曰く「自分が曲を作りまくっていくうちにどれが良い曲なのか分からなくなってしまった。」あまりに悩みすぎて作業が全く進行しないためしまいにはレーベルにマスターテープを取り上げられてしまったとか。
そんなこんなで出た本作は、彼女にとっては不満はあったかもしれませんが充分素晴らしい作品だと思います。いつか満足のいく作品を出してくれることにも期待しています。
4. Calvin Harris 『Funk Wav Bounces Vol. 1』
それまでのCalvinを"チンケなEDMのDJ"とナメまくっていた僕は本作の前に完全にひれ伏す事態となってしまいました。そこで展開されていたのは70〜80年代のファンクやディスコを彷彿とさせるポップ。僕以外にも衝撃を受けた人は多いのでは?Calvinのキャリアにおける原点ともいえるジャンルへの回帰はEDM熱が冷めた世界に王者自ら新たな熱を巻き起こしたかのようです。そして豪華な客演。時代を牽引するスーパースター達の声がCalvinがDJではなくコンポーザーとして生み出したサウンドに肉付けされ、今後のシーンを確実に変える作品になりました。(僕はDaft Punkの"Random Access Memories"と同じように評価されるべき作品と思っているのですが)一つ気になるのは各誌の今年のベストアルバムから漏れまくっていることです…まだまだアマイッ!ということか。
5. Mura Masa 『Mura Masa』
ジャンルに特化しすぎて埋もれてしまう例が多い中でバランスの良い作品を出せる実力はお見事。SoundCloudで注目を浴びたUK・ジャージー島出身のプロデューサー/DJはセルフタイトルのデビュー作でそのセンスを見せつけてくれました。一重にエレクトロニックと言ってしまうのも勿体ないように感じる、多彩なトラック、そしてこれまた豪華な(A$AP ROCKYからDamon Albarnまで)客演。その名刀のような鋭く滑らかなサウンドに自然と体が動きます。因みにMura MasaはKendrick Lamarが「DAMN.」をレコーディングしていたスタジオの向かいで作業していたこともあったようです。
6. Tyler, The Creator 『Flower Boy』
包み隠さず言うと自分は新譜の中ではこの作品を一番多く聴きました。つまり見事にハマったということです。これまで様々な別人格を演じ数々の奇行によって「変わり者ラッパー」として認知されてきたTylerですが、遂に本作で今までの姿勢を否定し、仲間に囲まれる中での孤独やそれまで世間を騒がせてきた自身のセクシュアリティと向き合っています。車好きのTylerの趣味も至る所に配置されてますね。これまでのTylerの作るトラックは硬派なものが多かった(そちらもかなりカッコイイ)のですが今作はメロウなトラックが多く鬱々した内容と反比例するかのように陽気な雰囲気を醸し出しています。トラップの要素もありますね。OFWGKTAの作品のプロデュースは全てTylerによるものなので当然この作品もTylerの手で作られたものですが、これまでに比べて数歩成長した感じが受け取れます。「俺は変わり者と言われてきた。でも、変わり者のままここまで来たよ。」…グラミーノミネートおめでとう、Tyler。
7. Liam Gallagher 『As You Were』
「帰ってきたロックンロールスター」…Liam、やったじゃん!新譜を聴いた時僕の不安は弾け飛びました。オアシスでもビーディーアイでもない、"Liam Gallagher"としての一歩。ツイ廃になったこと以外は何も変わらない…いや進化した(一時期のヘナヘナボイス期を感じさせない)Liamに全世界がガッツポーズ。…少し言いすぎたかもしれませんが、それ程彼は期待以上のものを持ってきてくれたのです。某バンドの「ロックンロールを救い出す」発言を完璧に成し遂げたのは、実はLiamだったのではないでしょうか…?
本作ではLiamを手伝ったGreg KurstinやDan Grech-Margueratの存在も忘れてはいけません。彼等のプロデュースによって本作は更に輝きを増し、ロック劣勢の現代に光を放つことが出来たのです。個人的には兄Noelの作品と敢えて比べても弟が頑張った感が強いです。…「2ndの制作は1st次第」と言っていたLiam。これから彼はどんなロックンロールを歌い上げてくれるのでしょう?
8. Beck 『Colors』
ポップスの再定義を示した作品。と簡単に言ってますが、実は非常に重要な部分があります。それはこれを作ったのが"Beck"であり、"2017年"にリリースされたということ。あのひねくれごちゃまぜサウンドを武器に(アコースティックな一面はあるものの)進んできたBeck Hansenがここにきて新たな引き出しを提示したのです。これに対して元々のごちゃまぜを期待していた層はそこまでだったようですが、“Dreams”が2015年、“Wow”が2016年に出て「路線変えたな」というのはなんとなく分かっていたので抵抗はなかったです。そして2017年という様々なジャンルが入り乱れる音楽業界の中でこの(希望を感じる)"ポップスとしてのロック"は素晴らしい出来を誇っています。Paul McCartneyのお願い(?)を見事に成し遂げたBeckに拍手!
9. N.E.R.D 『NO_ONE EVER REALLY DIES』
約7年ぶりの本作は政治色を帯びたリリックに"Pharrell節"(若しくは初期ネプチューンズ)ともいえるトラックが被さり、そこにN.E.R.D色も乗っかるという(文面だけだと)なんとも贅沢なアルバムになったと思います。あくまでN.E.R.DなのでPharrellのメロウな音像は抑えていますが、それが丁度いい。スピード感もキャッチーさも洗練されています。楽しいトラックとは逆に、リリックでは前述の通り自分達の生きる国で起こっていることに対して真摯に向き合い、そして溜まった感情をのせています。近年の米国の情勢はかなりショッキングで、N.E.R.Dをまた立ちあげる理由になったそう。そしてゲストもKendrick LamarにGucci ManeにAndré 3000にRihannaにEd Sheeranと強者ばかり。N.E.R.Dの音は人を選ぶと思っていますが、自分は好きですし勿論本作もスっと入ってきたので迷わず選びました。ひょっとすると今作は以前より入りやすいかも?とにかく、蘇ったN.E.R.Dに万歳!!!!
Honarable Mentions
惜しくも9選には入らなかったものの良作と思ったアルバムの数々を紹介します。
※画像は発売日順です
1. John Abercrombie Quartet 『Up and Coming』
ECMレコードでの活躍で有名な大御所ジャズギタリストの遺作。たっぷりのリヴァーブが心地良いです。R.I.P.
2. Loyle Carner 『Yesterday's Gone』
UKのラッパーが贈るADHDの自分をポジティブに捉えた勇気を貰える一作。自身のライブでのファンによるセクハラ発言もしっかり糾弾する強い人ですね。
3. Migos 『Culture』
トラップ最前線。ジャケからして成長している…!アトランタのシーンを探すきっかけになりました。合いの手がとにかく癖になります笑
4. HOMESHAKE 『Fresh Air』
元Mac Demarcoバンドのギタリストが放ったサードアルバム。チル度がツボだったのであと少しで9選ランクインでした…
5. Alfa Mist 『Antiphone』
これからのUKジャズシーンを担うであろう1人の自主配信アルバム。ゴージャスな内容にヒップホップからの影響も◎。これからに期待ということで…
6. Soulwax 『From Deewee』
ベルギーのダンスロックバンドが12年ぶりに復活を遂げた一作。なんとほぼワンテイクで収録された強烈なダンスナンバーが並びます。
7. Tuxedo 『Tuxedo Ⅱ』
なんも考えずに踊りたい時に。1stと比べて画期的な部分がそこまでなかったので惜しくもベスト入りならず。
8. Father John Misty 『Pure Comedy』
1曲目から号泣。音楽界注目の一作は僕的に"湿り気を取ったElton John"と勝手に命名…悪気はないです…
9. Kendrick Lamar 『DAMN.』
恐らく今年の音楽界の目玉。あちらこちらで見かけるので敢えて外してしまいました。でも、どこもとっても流石Kendrick。
10. Gorillaz 『Humanz』
元々ベストに入れる予定でしたが"これだけゴリゴリのクラブサウンド、Gorillaz名義じゃなくてよくね?"と…もう少しバンド感が欲しかったです。
11. Mac Demarco 『This Old Dog』
Mac Demarcoは今作も快調。アコースティックな一面も出てましたね。少し太ったのでベストまでは及ばず(嘘)。
12. Snoop Dogg 『Neva Left』
西海岸に回帰したアルバムながら、東海岸にも目を配る視野の広さ。Snoopがまた道を開いてくれました。まだまだイケますね…
13. Deerhoof 『Mountain Moves』
15作目。注目度がかなり低い(と思っています)ですが、サウンドの泥臭さがツボ。珍しく多数のゲストが参加してますね。
14. Kamasi Washington 『Harmony of Difference』
大曲「Truth」はじめEPながらフルアルバムレベルじゃね?と感じる程素晴らしかったのでここにイン。
15. PUNPEE 『Modern Times』
日本のヒップホップもまだまだ成長中。この人絶対PUNPEE(一般人)じゃない。"演じる"ことに重きを置いたデビュー作は既に傑作。
16. Noel Gallagher's High Flying Birds 『Who Built The Moon?』
うーん…どうせならもっとサイケして欲しかった…。ただ、フランス映画っぽい作りは凝ってるのが好きな僕は結構いいと思いました。ただいい曲もあるのでこの位置に。
まとめ
今年はなかなか豊作だったのではないでしょうか?新譜だけでこれだけ好きな曲が増えたのは初めてです。恐らく自分が積極的に新譜をチェックしていたからというのもありますが、それ抜きでも素晴らしい作品が続々と現れましたね。その分ベストアルバム9選もかなり苦労しました…でも、納得のいく選出になったと思います。この場を通じて皆さんに少しでもいい作品が伝われば幸いです。今年は僕のレビューからCDを買って聴いてくれた…みたいな方がいてくださりとても嬉しかったので来年も不定期でレビュー等あげられればなと思っています。又多数のレビューサイトやTwitterアカウントの方々の紹介もとても参考になりました。ああいうのって見るだけでとっても楽しいんですよね。だからこうして僕も書いてるんですけど笑。また来年も是非参考にさせて下さい。
最後にこれだけの量の音楽をすぐ聴ける環境(ストリーミングサービスそして周辺機器、勿論CDも)があることに感謝します。
来年もよろしくお願いします。それでは、良いお年を!
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